「いい夫婦の日」に寄せて



成長したコマチ坊が、カンベエの手を引いて家に連れて来る。

「モモタロ。おっさま、拾ってきましたよ」
女房が戸口に顔を出す。
「おやおや、手をかけさせてすみませんね。今度はどのあたりにいましたか」
「二の丸公園の近くでしたよ」
「段々遠くになりますね・・・。コマチ坊、お茶でも飲んでいきませんか」
女房は旦那の手を取って中へ連れて入る。コマチも続いて入る。

カンベエもお茶の席についているが、手はつけない。
女房とコマチ、しばらくは世間話。

やがて女房が沈黙するので、コマチが尋ねる。
「モモタロ、どうしたのですか、黙り込んで」
「ここんとこずっと考えてたんですけどね」と一口啜ってから旦那を見やる。

「カンベエ様の認知症、最近すすんでましてね。徘徊とやらも、段々と・・・・・・でもよく見てると、単なる迷子ではなくて、ずっと以前の、お一人で放浪の旅をしておられた頃に、心の中では戻っているようなんですよ」
「・・・・・・」
「こうやって自宅に帰っているのを、どう思っておられるんでしょうね・・・わたしがここにいることを」
そう言ってから、女房は言葉を切ってもう一口啜った。


「いずれ、それも分からなくなるかも知れない。ずっと放浪しているつもりで・・・」
「女房を捜して?」
「さあ。そうだと良いですね・・・それで決めたんです。カンベエ様が心の中で旅をしているなら、いっそ本当に二人で旅に出ようかって」
「ええっ?本当に?」
女房、きっぱりとうなずく。
「なまじ家があるから、徘徊なんて言われるんです。旅なら、どこでも好きに歩いていけるし・・・・・・わたしを捜してるかも知れないカンベエ様の側にわたしが付いていられるって・・・・・・素敵じゃないですか」

コマチ、言うべき言葉が見つからない。
「・・・・・・二人がいなくなるのは嫌です。これからは、おっさまを見かけても連れてこないから、ずっとここにいて」
「それでは、カンベエ様一人で旅に出てお仕舞いになるでしょ」
「そうか・・・・・・でも、やっぱり・・・・・・」と、最後は涙声に。
「ありがとう、コマチ坊。今までいろいろと、本当に有難う」

コマチは、女房の決心は変わらないと分かっているから、立ち上がると二人の間に来て、背中から両手を回す。
「道中お気をつけて。としか、もう言えない訳ですね」
女房もコマチの手を強く握ってうなずく。

唐突にカンベエが立ち上がり、戸口へ向かう。
「馳走になり申した」
「あ、ちょっとお待ち下さい」と女房が声をかけると、立ち止まって振り返る。
「忘れ物がありますよ。取ってきますから、少々お待ち下さいね」
「はて・・・先日邪魔したときに、何か携えておったかな」

女房、隣の部屋から小さな包みを抱えてくる。控えめな旅支度だった。
「モモタロ・・・・・・とっくに決めてたんですね」
女房、コマチにニッコリと微笑むと、カンベエに声をかけた。
「お待たせしました。さ、参りましょう」
「儂はこれからまた旅に出るのだが・・・」
「お伴しますよ」

カンベエ、まじまじと女房の顔を見て、
「お主、儂の女房によく似ておられる」
「左様ですか。女房殿はどんな方ですか」
「うむ・・・何故か遠慮ばかりする」
「・・・そうですか・・・・・・ご存知でしたか」女房、涙声になる。

コマチが言葉を挟む。
「一つ忘れてますよ、おっさま。女房殿は大層なべっぴんさんでしょ」
「娘さん、儂の女房をご存知か。そう・・・実は自慢して回りたいほどなのだ。これは本人には内緒だぞ」
女房、カンベエの腕を取ったまま、無言で俯いている。

「では、道中お気をつけて。また寄ってくださいね。みんな待ってます」
コマチの言葉に、カンベエは機嫌良く頷き、女房を振り向く。
ふと、気付いたように女房を見つめてから
「では、参るとするか・・・シチロージ」
「・・・承知!」
コマチは女房の頬をそっと拭ってやって、もう一度抱きしめる。


コマチに見送られて、二人は旅立っていった。



(2006.08.09)

当時、Bbsでちょっと言及したっきり封印しておいた夢です。
目が覚めて、泣いちまいやした。何の因果で、こんな夢を・・・
サイトの中でまだ再会してもいなかったときで、例え試供品でも、ちょっとこれは紹介できませんでした。

今日11月22日は「いい夫婦の日」だそうで。
「試供品」とはいえ・・・と、やはり迷ったのですが、これも私の萌えのうち、ということで、
その当時のメモのまま、載せておきます。

皆さんは、どんな夫婦を描いておられますか・・・



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